月刊誌「向上」(SYD修養団刊)の1月号に私の書いた随想「目標を立てる(ライフサイクルプラン)」が掲載されました。
太平洋横断の経験から
「目標を持つことの大切さ」 「夢を実現するノウハウ」
「青少年教育としてのライフサイクルプラン(人生設計図)」
について書かせて頂きました。
(随想の内容)
「目標を立てる」
NPO法人 森と海の学校 理事長
工学博士 岡村精二 .
新年を迎えると毎年「今年こそは」と目標を立てて取り組もうと思うのですが、いつの間にか、目標そのものを忘れ、気が付けば年末を迎えていることがあります。しかし、大きな夢や目標を持つことは、精神と身体に、そして人生に勇気と希望を与えてくれるものです。
昭和五十二年五月、二十三歳のとき、私は手作りのボートを漕いで太平洋横断に挑戦するために、一人で山口県の宇部港を出航しました。
八丈島からは櫓を漕いで横断する計画でしたが、時化でボートが転覆しましたが、偶然出会った漁船に助けられ、再度、航海を続けることができました。その後も幾多の困難がありましたが、百四十七日目の十月十日、アメリカのサンフランシスコ港に無事、入港しました。
私が初めて太平洋横断を意識したのは、中学三年生のときに読んだ堀江謙一さんの「太平洋ひとりぼっち」という本でした。六メートルのヨットで、しかもパスポートも持たないで密出国する航海記で、冒険心を掻き立てられました。「いつの日か、ぼくも挑戦したい」と決意したことを覚えています。
その決意は日増しに強くなり「十五少年漂流記」や「ジョン万次郎」など冒険心あふれる本ばかりを読みました。世界地図を広げては、日本からアメリカへの航路を線引きするようになりました。
そのとき、風は一年を通じて西から東に偏西風が吹き、海流も黒潮が北太平洋海流となってアメリカに向かって流れていることに気付きました。
「何もしなくても漂流さえしていればアメリカに行けるのではないか。誰も挑戦していないから、やってみたい。」
そんな思いが私の頭の中を巡り、そのことばかりを考える日々が続きました。
宇部高専に入学後、目標を立てて、具体的に計画を考えるようになり、初めての実行計画は十六歳の時に作りました。高専在学中に一隻目のヨットを手作りする。高専卒業後、船乗りになって航海術を学び、資金三百万円を稼ぐ。二十二歳で船を造って、二十三歳の四月一日に出航するというものでした。
大きな紙に描いた計画表と手漕ぎボートの簡単な図面を寮の部屋に貼りました。友達が来て、計画表を見ると、誰もが「お前に太平洋横断なんかできるわけない」「航海術も何も知らないくせに、無謀すぎる。」といつも言われました。私はそんな彼らに一生懸命、計画を説明しました。
高専の五年生になると、同級生は次々と就職が決まりましたが、私は大学に進学したいと担任に嘘の報告をして太平洋横断への準備を進めていました。
しかし、私の本音は揺れていました。「今、就職しなかったら、いい会社には入れないのではないか。大学にも進学できないのではないか」「本当に、太平洋横断が私にできるのだろうか」
冒険への不安、将来への不安、寝て見る夢はいつも嵐の中で格闘している姿でした。
できない理由、止める大義名分を真剣に探していました。しかし、挑戦しなかったことを一生後悔するのではないだろうかという思いもあり、葛藤の日々を過ごしていました。
そんな折、偶然「天国に一番近い島」という森村桂さんの書かれた本に出会いました。幼い頃、お父様から「南のほうに土人が暮らしている天国に一番近い素晴らしい島がある」と聞かされた話を信じ、貨物船でニューカレドニアに行ったエッセーですが、昭和三十年代、まだ自由に海外旅行をすることができなかった頃の出来事であり、読み終わった後、こんな素晴らしい人がいるんだと感動しました。
本の中にあった「夢を夢のままにせず、その実現に向かって努力することが生きることだ」という言葉が、太平洋横断を実行するための大儀となりました。「自分自身を納得させる大儀」が私には必要でした。
高専を卒業後、第一歩を踏み出すために漁船に乗船し、それから三年後、ついに出航の日を迎えました。
航海中、時化で転覆したり、苦しいこともあり、何度も泣きました。泣くと、なぜか心が落ち着きました。
今では懐かしい思い出です。
あれから三十四年が過ぎ、今度は私の子どもたちが、その歳になりました。
当時を振り返ると、父母が私を太平洋横断に送り出したときの心境は、想像を絶するものがあったと思います。親になって、初めて気付かされることがたくさんあります。
親の心配を振り切ってでも、成し遂げたかった強い意志こそが、私にとっての青春だったのかもしれません。
振り返ってみると、「夢を実現するために大切なことは、そんな第一歩を踏み出す小さな勇気」だけだったように思います。
私の主宰する「森と海の学校」では、参加者の小中学生がライフサイクルプラン(人生設計図)の作成に取り組んでいます。子どもたちは自分の夢に関係する写真の切り抜きを貼ったり、イメージ画を描いたりします。
夢中になって取り組む子どもたちを見ると、目標を立てることが人を元気にしてくれるのだと思います。
ライフサイクルプラン(人生設計図)の見本をご紹介します。
写真左は21歳の女の子。
なぜか、20歳くらいの女性は必ず、ウェディングドレスを着た花嫁の写真を貼っています。
写真右は小学5年生の男の子の描いたライフサイクルプランです。
私が主催しているジュニア洋上スクールでは研修として、必ず書かせています。
山陽小野田市の高千帆中学校では中学2年生が立志式の課題として、取り組みました。
以前、中学2年生の女の子が考えられる障害の欄に「お母さんの声がうるさい!」と書き、
対応策の欄には「お母さんの口をガムテープで縛る」と書いていました。
仕上げるために掛かる時間は3時間くらいですね。真剣に取り組めば、1日掛りの研修です。