災害対策分野における「工学博士」取得までの歩み

Updata 2010年 5月10日

平成22年3月8日山口大学より学位博士(工学)を授与されました。
阪神・淡路大震災以来、災害対策に携わって15年目となりましたが、本当に有難いことだと感謝しています。
授与式は3月8日午後5時から山口大学工学部の本部棟で開催され、学長の丸本卓哉先生より手渡されました。
防災工学分野(安全環境教育分野)での博士号です。
議員になってから、大学に入学し、学位博士を取得した事例は全国で初めてだそうです。
ひとえに研究活動を支えて下さった三浦房紀教授をはじめ、多くの皆さまのご協力の賜物と心から感謝しています。
特に大学生3人(長男、長女、私)の学費を黙って納め続けた妻には、大感謝ですね。

(左上写真)丸本卓哉山口大学学長より「学位記」を授与されました。 
(右上写真)三浦房紀教授(学部長)と


(左上写真)海志、丸本山口大学学長、私、妻、星香、三浦先生
(右上写真)論文作成など、たいへんお世話になった村上ひとみ准教授も駆け付けて下さいました。
今回、学位博士(工学)を取得したのは3名(中国人留学生の女性と工学部の先生と私)でした。

本審査に提出した学位論文5冊と、授与された学位記

振り返ってみますと、研究活動の発端は、平成7年の阪神・淡路大震災直後、被災者が避難所となった体育館に溢れ、不自由な生活を余儀なくされている姿をテレビで見たときでした。
当時必要とされた仮設住宅は約5万戸、その建設日数は6ヶ月も掛かるとのことでした。
「被災者をプライバシーのない避難所生活から早期に開放する方法はないのか」「立派な仮設住宅でなくとも、とりあえず住める簡易住宅を早急に提供する施策はないのか」と考えたとき、思い起こしたのは単独太平洋横断に使用したシンシア3世号のことでした。
全長6m、幅2mの小さなヨットですが、船内には4人生活できる空間と設備がありました。 
その経験を基に「1週間で5万戸設置できる避難施設を開発したい」を研究課題として始まったのが、早期設置型戸建てシェルター(緊急避難施設)の開発でした。
「被災者を救いたい」との願いだけで始まった研究は15年目を迎え、山口大学大学院(防災システム工学科)に社会人学生として入学して9年目となりました。
議員として多忙な日々の合間での研究活動でした。
しかし、長年の研究成果を博士論文としてまとめる機会を頂けたことは本当に有難いことだと感謝しています。
今後も微力ながら「暮らしの安全・安心を守る」という使命感を持って災害対策に取組んで参りたいと思っています。
製本された学位論文を、ゆっくり読み直してみると、15年間の研究経過と本当に多くの皆様のお世話になったと心から感じます。


学位論文の題目は
『大災害を想定した早期設置型「戸建てシェルター」の開発と評価』
(Development and Evaluation of Sectional Compact Emergency Shelterfor Early Supply in The Great Disaster)
総頁数はA4版で150頁です。

一般公開のために県庁議会棟前に搬送された早期設置型「戸建てシェルター」の試作品
(組立て前は幅2.2m長さ2.5m、高さ0.8mの箱状)

組立後は、室内にベッド4、テーブル、トイレ、シャワー、冷蔵庫、台所が備わった戸建てシェルターになります。
組立て時間は約45分。解体は約30分。組立作業にクレーンは必要ありません。

新潟県中越地震発生後、被災地である小千谷市に搬送設置された戸建てシェルター。
災害ボランティアの青年たちが、1ヶ月居住実験を兼ねて生活しました。

【学位論文要旨】
大災害を想定した早期設置型「戸建てシェルター」の開発と評価
(Development and Evaluation of Sectional Compact Emergency Shelter
for Early Supply in The Great Disaster)

阪神・淡路大震災では、6千名を超す犠牲者を出す大惨事となり、兵庫県では避難所1,153か所に約32万人の被災者が避難した。必要とされた応急仮設住宅は約5万戸だったが、1か月後に建設された応急仮設住宅は1,250戸であり、7ヶ月たった8月11日までに完成したのは4万8,300戸だった。特に市街地では敷地の確保が難しく、応急仮設住宅が自宅から離れたところに建設され、自宅の修理などに支障をきたした事例もある。また、復興の初期の過程において、自力で従前居住地に住宅・店舗・工場の建設に取組んだ被災者もいる。
現在使用されている応急仮設住宅は、軽量鉄骨で骨組みを組立てて外壁を形成する方式と、コンテナハウスを現地で連結する方式の2通りがあり、災害の規模にもよるが、2000年鳥取県西部地震の日野町や2000年北海道有珠山噴火の虻田町では被災後約20日、また新潟県中越地震では被災後約30日で最初の入居が可能になり、3,460戸の建設に2ヶ月を要した。
また、既存の応急仮設住宅では、大規模な災害が発生した場合には、建設場所・資材置き場の確保、建設日数の長期化、大工等の作業員およびその宿泊場所確保などの観点から対応できないという問題もある。
避難所生活は被災者の孤立化を防ぎ、情報を共有できるなどの利点もあるが、プライバシーのない生活を強いられ、心身の健康に影響を及ぼし、自家用車等での窮屈な生活によるエコノミー症候群も問題となっている。
既往の研究においても、応急仮設住宅や復興住宅の建設に当って、避難所からの早期開放、従前居住地近くに居住すること、住宅復興の選択肢を増やすことの重要性を指摘している。
本研究では緊急避難施設の選択肢の1つとして、従前居住地である被災した自宅そばに設置し自宅の修理など、住宅復興支援の選択肢として、避難生活からの早期開放と住宅の復興を支援する対策として災害発生後、被災地に配送し、早急に居住可能となる小型の「早期設置型の戸建てシェルター」の開発を行い、アンケート調査と居住実験により、その居住性に関する検討を行い、その活用方法を提案することを目的とした。
まず、過去約20年間に地震や台風、津波により、甚大な被害を受けた国内の7市町おいて設置された避難所と応急仮設住宅を調査した。調査分析結果に基づき、戸建方式の災害用「早期設置型の戸建てシェルター」の必要性を確認し、備えるべき諸条件を把握し、「早期設置型の戸建てシェルター」の開発を行い、模型および試作品による実証とその運用に関する研究を行った。
開発・検討の過程において模型を6戸製作し、また原寸大の試作品5台を製作した。
「早期設置型戸建てシェルター」の必要性と居住性、活用方法を検討するため、宇部市で試作品による組立て・解体の公開実験と市民へのアンケート調査を行い、2004年11月、新潟県中越地震で被災した新潟県小千谷市に搬送し、同様のアンケート調査を行った。 
居住実験は小千谷市に設置し、災害ボランティア等を被験者として、1ヶ月間の冬季居住実験を行い、2006年7月~8月、山口大学工学部(宇部市)のキャンパス内に設置し、学生を被験者として夏季居住実験を行った。さらにアンケート結果と居住実験を評価検討し、新規・組立て式戸建てシェルターを試作し、居住実験を行った。
その結果得られた主な知見は、以下の通りである。
1)アンケート結果により、小千谷市と宇部市では、災害に対する意識の違いから、戸建てシェルターの必要性、使用限界日数、求める住宅設備にも、差があることがわかった。
避難所生活の限界日数より、戸建てシェルターの限界日数の方が長いことから、住民の期待に応えられる可能性が示された。また、避難所生活の不自由さとして、プライバシー、睡眠、食事、入浴、不安感などが課題となるが、戸建てシェルターはプライバシー、睡眠、食事などの課題を改善できることがわかった。
2)居住実験から、試作品は輸送に耐え、数週間の避難施設としての役割を果たせることが確認できた。しかしながら、本体構造の剛性、防火対策の必要性、組立て方式の簡素化、床面積の狭さに起因する問題点も明らかになった。
3)新規戸建てシェルターの開発では、上記2)で指摘された問題点を解決するとともに、火災からの安全性、また余震対策等に対する強度も考慮し、構造材料を軽量鉄骨にし、壁・屋根材も鋼板製に変更した。居住実験により、設備・居住性について改善されたことが確認された。
4)戸建てシェルターは基本的な生活のための居住性を有しており、さらに連結可能であることから、障害者や高齢者、大家族にも対応できる。全国に分散して備蓄することによって、災害時での早期設置が可能となり、戸建てシェルターの実用性は高いものと思われる。
以上のことから、戸建てシェルターは既往の研究で指摘されている3項目
①避難所生活からの早期開放
②従前居住地近くに居住すること
③住宅復興の選択肢を増やすこと
を満足するとともに、被災直後の避難施設の選択肢の一つとして、有効であることがわかった。

学位取得までの歩み(アーカイブ)

1995年 阪神・淡路大震災
1999年 代風18号による高潮で山口県西部地区、甚大な被害
2000年 北海道有珠山噴火

左写真:神戸市内の避難所
中写真:北海道有珠山噴火
右写真:台風18号による高潮災害(宇部市床波商店街)
2000年10月 山口大学大学院前期博士課程(修士課程)防災システム工学科入学
2002年9月  山口大学大学院前期博士課程(修士課程)終了
2002年10月 山口大学大学院後期博士課程(環境安全学科)入学
2008年9月  山口大学大学院後期博士課程単位取得退学
2009年8月  日本建築学会の学術論文(2本目)が採用決定。学位論文を大学院に提出

〈日本建築学会論文①「大災害を想定した組立て方式による早期設置型「戸建てシェルター」の開発」PDFファイル)
〈日本建築学会論文②「戸建てシェルター」の居住性に関する検討と新規試作品の開発」PDFファイル)

2009年12月18日 学位論文公聴会

12月18日、「博士」学位論文公聴会が山口大学工学部のD12講義室で開催されました。
午前9時からの公聴会には、早朝、雪の降りしきる中、しかも年末のたいへんお忙しい時期にもかかわらず、多くのご参加頂きました。
おかげ様で博士論文の予備審査、本審査、そして公聴会を終え、2010年(平成22年)3月16日、山口大学本部で開催される授与式で学位「工学博士」を頂けることになりました。

左写真:多くの聴講者の前での発表、まさに私は学生です。
プロジェクターで映し出されたパワーポイントのスライドで研究発表を行い、聴講者から質問を受けました。
写真右:終了後、会場看板の前で記念写真。     
左端は妻の里美、そして、宮本弘・映子後援会会長夫妻。
三浦房紀教授、村上ひとみ准教授、滝本浩一准教授には、本当にお世話になりました。
この後、私は議会に出席するため、山口に向かいました。

2010年3月8日 学位「博士(工学)」を授与
2010年4月28日 学位授与祝賀会(宇部全日空ホテルにて)